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最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)278号 判決 1997年7月01日

上告人

松本鶴松

右訴訟代理人弁護士

土田嘉平

被上告人

羽根町漁業協同組合

右代表者代表理事

林竹松

右訴訟代理人弁護士

行田博文

下元敏晴

主文

一  原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

二  被上告人の昭和六〇年八月一四日の通常総会における上告人の漁業権行使を禁止する旨の決議及び被上告人の昭和六一年一月一九日の臨時総会における上告人を除名する旨の決議がいずれも無効であることを確認する。

三  訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人土田嘉平の上告理由第一点について

記録によれば、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合であり、上告人は、被上告人の組合員で理事の地位にあった者である。

2  被上告人は、高知県知事から第二種共同漁業を内容とする五個の共同漁業権の免許(以下「旧免許」という。)を受けていたが、昭和五八年八月三一日でその存続期間が満了するため、昭和五七年八月一四日の通常総会の決議に基づき、同年一一月ころから右五個の共同漁業権に係る漁場と同一の漁場について新たに共同漁業権の免許を受ける手続を進めていた。右五個のうち四個の共同漁業権に係る漁場については、花岡漁重外の組合員が共同漁業権の内容である漁業を営んでおり、右総会において新たに免許を受けた後も従前と同じ者がそのまま漁業を営むことが承認されたが、残りの一個の共同漁業権に係る漁場(以下「本件漁場」という。)については、その後面に位置する漁場で漁業を営んでいた花岡漁重との間で以前に紛争が生じたことがあり、昭和五三年ころ以降は漁業を営む者がいなかった。

3  旧免許に係る各共同漁業権について被上告人が制定した漁業権行使規則によれば、同規則の規定に基づいて別に組織される漁業権管理委員会が漁業を行う者及び漁業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を定める旨規定されていたが、現実には漁業権管理委員会は機能しておらず、漁業を行う者の決定は、希望者が被上告人の理事会に申し込み、理事会の決定を経た上、総会の議決により行うという方法が採られていた。前記通常総会において、被上告人は、漁業権管理委員会を漁業権行使規則に従って活動させることにし、五名の管理委員を選出したが、その際、併せて「漁業権の行使者変更又は漁場変更の件については総会の議決に基づいて行う」との議決を全員一致で行った。しかし、右総会決議の内容に沿った漁業権行使規則の変更はなされなかった。

4  被上告人は、昭和五八年七月二三日、高知県知事から第二種共同漁業を内容とする五個の共同漁業権の免許(共第二五三二号ないし共第二五三六号)を受けた。そして、同年の通常総会において、右各共同漁業権に係る漁業権行使規則(以下「本件漁業権行使規則」という。)の制定が議決され、高知県知事の認可を受けたが、同規則においても、五名の管理委員により構成される漁業権管理委員会が漁業を行う者及び当該漁業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を定める旨の規定(七条一項)が置かれたにとどまり、右3の総会決議の内容に沿った規定は置かれなかった。

5  上告人は、昭和五七年一二月一九日、被上告人の組合長に対し、右免許後の本件漁場に係る共同漁業権(共第二五三四号。以下「本件漁業権」という。)の行使を申請した。組合長は、右免許を受けた後、本件漁業権行使規則の規定に従って、その審議を漁業権管理委員会に付託し、同委員会は、上告人の申請を入れて、本件漁業権の行使者を上告人とすることに決定した。しかし、上告人が本件漁業権を行使することを承認する旨の総会の議決はされなかった。

6  上告人は、昭和五九年四月ころから本件漁場において操業を開始したが、かねてから本件漁場における共同漁業権の行使に難色を示していた花岡漁重らとの間で紛争が生じ、上告人と花岡らとの関係が険悪化した。そのため、被上告人の同年通常総会において、一部の理事から操業区域を調整した上で上告人の漁業権行使を認める方向の提案がされ、これを受けて上告人と花岡との間で話合いが行われたが、右話合いは決裂し、上告人はその後も操業を続けた。

7  被上告人の昭和六〇年八月一四日の通常総会において、上告人が本件漁業権を行使することを禁止し、上告人に対し同年九月三〇日までに漁具を引き揚げるように求める旨の決議(以下「本件漁業権行使禁止決議」という。)がされた。これを受けて、被上告人は、上告人に対し、同月二一日付け書面により、本件漁業権行使禁止決議に基づき、本件漁業権の行使は違反操業であるから同月三〇日までに漁具、漁網を撤去するよう勧告し、さらに、同年一二月九日付けの内容証明郵便により、同月一六日までに漁具を撤去するよう請求した。しかし、上告人は右請求に従わなかったため、被上告人の昭和六一年一月一九日の臨時総会において、上告人を除名する旨の決議(以下「本件除名決議」という。)がされた。上告人に対する除名理由は、(1) 本件漁業権行使規則七条一項に違反し、被上告人の信用を著しく失わしめた、(2) 役員の忠実義務に違反した行いをした、というものであった。

二  上告人の本訴請求は、本件漁業権行使禁止決議及び本件除名決議の無効確認を求めるものであるところ、原審は、次のとおり判示して、本訴請求をいずれも棄却すべきものとした。

1  被上告人においては、本件漁業権行使規則が制定された後も、被上告人が免許を受けた共同漁業権の行使者の決定権限は総会が有していた。総会は、組合員の総意により組合の意思を決定する最高の機関であり、組合の組織運営等に関する一切の事項について議決することができるのであるから、共同漁業権の行使者の決定権限を総会に留保する旨の前記一3の総会決議は有効であり、右決議について県知事の認可を受けていないからといって、右決議が無効であると解すべき理由はない。

2  上告人による本件漁業権の行使は、漁業権管理委員会の許可を得たのみでいまだ総会の承認の議決を経ていない段階において行われたものであるから、被上告人の昭和六〇年八月一四日の通常総会において上告人に対し本件漁業権の行使を禁止し漁具の撤去を求める旨の議決をしたことに違法はなく、本件漁業権行使禁止決議は有効に成立したものと認められる。

3  上告人は、被上告人の理事でありながら、総会の承認を得ることなく本件漁業権を行使するという本件漁業権行使規則違反行為を行い、本件漁業権行使禁止決議及びその後数度に及ぶ被上告人の同旨の勧告にも従わずに違反操業を続けたというのであり、上告人の右行為は、被上告人の定款三五条一項の「役員は法令、定款、規約及び総会の決議を遵守し、組合のため忠実にその職務を遂行しなければならない」との規定に違反し、定款が除名事由として定める「組合の定款もしくは規約に違反し、その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき」に該当するものであり、その違反は決して軽度なものではないから、上告人の除名は相当であり、本件除名決議は有効に成立した。

三  しかしながら、原審の右判断はいずれも是認することができない。その理由は、次のとおりである。

漁業法によれば、共同漁業権は、同法一四条八項に規定する適格性を有する漁業協同組合又は漁業協同組合連合会(以下「漁業協同組合等」という。)に対する都道府県知事の免許によってのみ設定されるものであり(同法一〇条、一三条一項一号)、漁業協同組合の組合員(漁業者又は漁業従事者であるものに限る。)であって当該漁業協同組合等がその有する共同漁業権ごとに制定する漁業権行使規則で規定する資格に該当する者のみが当該漁業協同組合等の有する当該共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有し(同法八条一項)、漁業権行使規則には、漁業を営む権利を有する者の資格に関する事項のほか、当該漁業権の内容である漁業につき、漁業を営むべき区域及び期間、漁業の方法その他当該漁業を営む権利を有する者が当該漁業を営む場合において遵守すべき事項を定める旨規定されている(同条二項)。また、同法及び水産業協同組合法によれば、漁業権行使規則の制定、変更及び廃止のためには、総組合員(准組合員を除く。)の半数以上が出席し、その議決権の三分の二以上の多数による議決を要すること(水産業協同組合法五〇条五号)に加えて、都道府県知事の認可を受けなければその効力を生じないものとされている(漁業法八条四項、五項)。このように、漁業法が同法八条二項に規定する事項についての規律は専ら漁業権行使規則の規定によるものとした上で都道府県知事の認可を同規則の制定、変更及び廃止の効力要件として規定しているのは、共同漁業権も漁業権の一種として水面の漁業上の総合利用を図り漁業生産力を維持発展させるという公益的見地から都道府県知事の免許によって設定されるものであることにかんがみ、同規則の制定、変更及び廃止をすべて漁業協同組合等の自治的手続にゆだねてしまうのは相当でないとして、公益的見地から都道府県知事に審査権限を付与する趣旨のものであると解される。

右に述べた共同漁業権についての法制度にかんがみると、漁業協同組合が、その有する共同漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者の資格に関する事項その他の漁業法八条二項に規定する事項について、総会決議により漁業権行使規則の定めと異なった規律を行うことは、たとえ当該決議が水産業協同組合法五〇条五号に規定する特別決議の要件を満たすものであったとしても、許されないものと解するのが相当である。

四  これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、本件漁業権行使規則は、五名の管理委員により構成される漁業権管理委員会が漁業を行う者及び当該漁業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を定める旨規定しており、右事項についての総会の権限を定めた規定は置かれていないというのであるから、前記一3の総会決議が右決定の最終的権限を総会に留保する旨を定めたものであるとしても、同規則は、本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者の決定を専ら同規則に基づいて組織される漁業権管理委員会の権限として規定したものと解さざるを得ず、右決議は、同規則と抵触する限度において、その効力を有しないものというべきである。しかるところ、前記事実関係によれば、漁業権管理委員会は本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者を上告人に決定したというのであるから、右決定につき総会の承認決議を経ていないとしても、上告人は本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有するものといわなければならない。そして、本件漁業権行使禁止決議は、上告人が本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有しないことを専らその理由とするものであるから、右決議は、その前提を欠き、無効と解するほかはない。また、本件除名決議も、上告人が本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有しないにもかかわらず右漁業を営み、本件漁業権行使禁止決議及びこれを受けた被上告人の勧告、請求に従わなかったことが被上告人の定款の定める除名事由に該当することを理由とするものであるから、右決議は、除名事由に該当する事実がないにもかかわらずこれがあるものとしてされたもので、その要件を欠き、無効というべきである。

右と異なる原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の点について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、以上によれば、上告人の請求をいずれも棄却した第一審判決を取り消して、右請求をいずれも認容すべきである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官山口繁)

上告代理人土田嘉平の上告理由

第一点 原判決には民事訴訟法第三九五条第一項第六号の理由不備又は理由齟齬がある。

一 原判決は、原判決書六丁裏の六行目以下において、第一審判決書の判示を訂正しているが、その訂正の趣旨が不明で一貫せず、その結果、判決の理由としての体をなしていない。

すなわち、原判決は、組合員が漁業権を行使するためには、組合総会の議決を要するものであると判断する、と判示しているが、その中で第一審判決書の説示を訂正している。

その訂正箇所をみるに、まず、一一丁表四行目「池内明治」とあるが、第一審判決書一一丁表四行目には「池内明治」という記載はない(それは六行目にある)。

同じく、同所六行目「行使者の決定は」の下に「当該漁業権を行使したいと希望するものが、その旨」を加え、とあるが、第一審判決書一一丁表六行目には「行使者の決定」という記載はない(それは八行目にある)。

以上は、単に行数の表示が二行ずれたと認められないではない。

二 しかし、次に原判決書六丁裏九行目には、『同丁裏初行全部を「共同漁業権行使規則の一部を変更するとともに、従来、機能していなかった委員会を規則に従って活動させることにし、管理委員を選出したが、漁業権の行使にかかわる事項については、組合員間の利害関係が大きいので、五名の委員の決定に委ねることは適当でないとの見地から、』に改めると判示している。

原判決が右にいう、「同丁裏初行全部」とは一一丁裏初行全部を指すものと解せられるが、第一審判決書一一丁裏初行は、「を出したことがあったので、総会の決議でやるほうがよいとの意見が出されたた」とあり、この初行全部を前掲の原判決のとおり「共同漁業権行使規則の一部を変更するとともに(中略)適当でないとの見地から、」に改めると、『大きな赤字(第一審判決書一一丁表最終行)共同漁業権行使規則の一部を変更するとともに、従来、機能していなかった委員会を選出したが云々』となり、何が何だかさっぱり理解できない。

原判決は「一一丁裏初行全部」を前記のとおりかなり長文のものに改めるというが、「一一丁裏初行全部」とは、前掲のとおり「を出したことがあったので、総会の決議でやるほうがよいとの意見が出されたた」となっており、これまた首尾一貫しない。

以上、原判決は理由不備又は理由齟齬であること明白であり、破棄されなければならない。

第二点 原判決は、漁業法第八条の解釈適用の誤りがある。

一 原判決は、「被控訴人組合においては、組合員が漁業権を行使するためには、組合総会の議決を要するものと判断する」(原判決書六丁裏二行目以下)として、上告人が本件漁業権行使について、規則七条一項所定の委員会の許可決定を受けていると認定しながら(原判決書六丁表七行目以下)、上告人の本件漁業権行使は、組合総会の承認決議を経ていないから、上告人の本件漁業権行使を禁止し、漁具の撤去を求めた本件総会決議は有効に成立していると判示している(原判決書七丁表一三行以下)。

二 その理由として、原判決は、第一審判決と同様に「共同漁業権行使規則が制定され、漁業権管理委員が任命された後も、被告(被上告人)においては、共同漁業権の行使者の決定の最終的権限は従前どおり総会が有していたと認めるのが相当である」。なぜなら「総会は組合員の総意により、組合の意思を決定する最高の機関であり、法令、定款に違反しない限り、組合の組織運営等に関する一切の事項について議決することができるのであるから」と判示している(原判決書七丁表七行目以下)。

三 しかしながら、右は漁業法第八条の解釈を誤ったものである。

すなわち、旧漁業法の漁業権の免許方式は、いわゆる先願主義と更新主義をとっていたことが特徴で、これによって漁業権が半永久的な権利とされていたが、この更新制度の存在が漁場の利用関係を固定させ、漁業生産力の停滞をもたらし、封建的な生産関係を温存する一因となったことから、戦後の漁業制度改革で、漁場計画によって漁業の免許のあり方を一定期間ごとに再検討する考え方が採用されたのであり、わけても昭和三七年の漁業法改正は漁業権の存続期間の規定について、漁業権制度全体の構成―漁場計画に基づいて適格性、優先順位によって最も妥当な者に免許するという原則に立ちもどって、漁業の内容および漁業調整上の必要から見て妥当な存続期間に改めるとともに、区画漁業権の延長制度を廃止したものである。

四 従って、漁業権の更新制度は廃止され、存続期間が終了すれば、その漁業権は消滅し、新たな漁場計画により行政庁が設定した漁業権に対し、改めて免許申請をして漁業権免許を受けなければならぬと法定されている。

ただ、期間的には、既存の漁業権と次に免許される漁業権との間に、いわゆる切れ目(時間的空白)が生じないよう、免許内容の事前決定が法定されている(法第一一条)。

五 以上の新漁業法の漁業権免許および漁業権の存続の定めによれば、被上告人組合の本件各共同漁業権は昭和五八年八月三一日の存続期間終了によって、消滅するのであり、同年九月一日以降の右各共同漁業権は新たに被上告人が行政庁へ漁業権免許申請をなし、行政庁から免許があって初めて共同漁業権が認められる。

従って、昭和五八年八月三一日を以って花岡漁重ら四名の漁業行使権も消滅するのであって、昭和五八年九月一日に新たに被上告人組合に設定される第二種共同漁業権の行使決定については花岡漁重ら四名も上告人も、共に同じ立場において、漁業権行使決定がなされなければならぬことは新漁業法の定めによって明らかである。

六 ところで、漁業法第八条第一項は、「漁業協同組合の組合員であって、当該漁業協同組合が有する各共同漁業権ごとに制定する漁業行使規則で規定する資格に該当する者は、当該漁業協同組合の有する共同漁業権の範囲内に於て漁業を営む権利を有する」と定めており、組合員の漁業行使権は右法条に基づいて設定される。

被上告人組合は、昭和五八年九月一日以降の漁業権免許申請にあたって、漁業法八条二項に基づいて共同漁業権取得と漁業権行使規則の制定について、昭和五八年八月一四日開催の通常総会において、特別決議を経て、免許申請及び行使規則の認可申請を行なっており(乙第一五号証)、右によれば、昭和五八年九月一日以降の共同漁業権の行使決定については、昭和五八年八月一四日の通常総会における特別決議によって制定された共同漁業権行使規則(甲第一〇号証)に基づいて、被上告人組合の管理委員会が漁業行使権者の決定をすれば適法に本件小型定置漁業を営みうるのであって、それ以上に、総会の決議を要するいわれはない。

七 しかるに原判決は、昭和五七年八月一四日に開催された被上告人組合の通常総会において、漁業権行使規則の一部変更の決議と同時に、「但し、漁業権の行使者変更又は漁業変更の件については、総会の議決に基づいて行う事」との決議がなさていることについて、「漁業権の行使にかかわる事項については、組合員間の利害関係が大きいので、五名の委員の決定に委ねることは適当でない」との見地から右の決議がなされたものであると判示し(原判決書六丁裏九行目以下)行使規則による漁業行使権決定に加えて、なお、総会の承認決議を必要とすると判断している。

八 しかしながら、右昭和五七年度通常総会における「但し書決議」は、そもそもその決議内容自体明確でない上に、原判決のいうように、「漁業権の行使にかかわる事項については、五名の委員に委ねることが適当でない」ので総会の議決を要するというのであれば、昭和五八年度通常総会において、同年九月一日から免許される共同漁業権についてなぜ再び第七条(漁業を行う者等の決定)を含んだ共同漁業権行使規則(甲第一〇号証)を特別決議で制定したのか、理解できない。

原判決は、前述のとおりその内容自体不明確な昭和五七年度総会における「但し書決議」にこだわりすぎたため、昭和五八年度総会における行使規則制定の特別決議の意義を過小評価し、その結果、漁業法第八条一項の解釈適用を誤るに至っているのである。

しかも、昭和五七年度総会の「但し書決議」は、出席者七五名委任状提出者二二〇名という出席状況であるのに比して、昭和五八年度総会における漁業権行使規則制定の特別決議は、正組合員二九五名中、一六二名が出席し、委任状提出者五六名という、内実のある出席状況の中で特別決議がなされている(乙第一五号証)のであり、しかも、右特別決議は昭和五八年九月一日から新たに免許される共同漁業権についての行使規則制定にかかるものであり、右特別決議についてはなんら「但し書決議」は付されていないこと明白であるから、原判決が、昭和五八年八月一四日開催の漁業権行使規則制定の特別決議についても、昭和五七年度総会の右「但し書決議」の効力が及ぶと判断しているのは、明らかに漁業法第八条の解釈を誤ったものといわねばならぬ。

九 そもそも、昭和三七年漁業法を改正し、同法第八条に漁業権行使規則なる制度を設けたのは、組合が部落的な漁業権に拘束されることなく経済的に拡大発展できる途を開いた。具体的には、改正後の漁業法第八条は、組合の有する共同漁業権について、組合員は漁業権行使規則に規定された資格をそなえた場合に限って、当該漁業権を営む権利を有するものとし、漁業権行使規則で有資格を限定し、その資格を有しない組合員は行使権を有しないものとなしうることを明らかにするとともに、その三項及び五項においては、かような、いわば組合員であることと漁業権の行使に参加することが分離されたことに伴う、関係漁民の利益保護の観点からする調整的な規定が設けられたのである。

これをさらにふえんすれば、改正後の漁業法第八条一項によって、明文上「漁業を営む権利」を有しない組合員の存在が許容されるに至ったが、他面漁業協同組合(以下たんに「組合」という)の広域化、拡大化に伴い、いわゆる組合有漁業権は、組合に帰属するものとされながら、当該漁業権の内容たる漁業を営む者よりむしろこれを営まない者の方が多数を占め、ひいては、単一の組合のなかにあって、その有する漁業権を事実上部落ごとに分割して行使するという事態すら予想されたところより、共同漁業権のうちの、地縁的つながりが密接な第一種共同漁業権と特定区画漁業権については、水産業協同組合法第五〇条、第四八条に定める総会の特別決議の要件を充たす場合であっても、当該漁業に従事しない組合員の意思のみによって、現に当該漁業を営む者の地位が不当に脅かされることのないよう配慮したものとされている(福岡高裁判決昭和四八年一〇月一九日)。

一〇 これを要するに原判決は、「漁業権の行使にかかわる事項については、組合員間の利害関係が大きいので、五名の委員の決定に委ねることは適当でない」とか、「総会は、組合員の総意により、組合の意思を決定する最高の機関であり、法令、定款に違反しない限り、組合の組織運営等に関する一切の事項について議決することができるのであるから」などの理由を以って、本件漁業権行使規則が昭和五八年度総会の特別決議で制定されているにも拘らず、右行使規則制定前の昭和五七年度総会における前記「但し書決議」の効力が生きており、漁業権の行使決定について、さらに総会の承認決議を要すると判断している。

しかし、組合の最高意思決定機関である総会が、特別決議を以って漁業権行使規則を制定した以上(乙第一五号証、甲第一〇号証)、その行使規則こそ組合の組織、運営についての意思決定であり、それを、単純な総会決議でくつがえしうるというのは背理であり、ましてや、前記九で述べたとおり、漁業法第八条は、少数者である漁業権行使の有資格漁業者の地位が不当に脅かされないように配慮されているのであって、原判決が管理委員会の決定のほかに、総会の承認決議を要するとした判断は、漁業法第八条の解釈適用を誤ったものといわねばならない。

一一 以上のとおり、上告人の本件漁業権の行使は、原判決も認めているとおり、管理委員会の許可決定に基づいてなされているもので、本件漁業権行使規則七条および漁業法第八条によって適法な権利行使であるから、被上告人が昭和六〇年八月一四日の総会でなした「共第二五三四号漁業権行使の停止及び漁具を引き上げさせる旨の決議」が違法であることは明らかである。

だとすれば、右違法な決議に従わなかったとしてなされた昭和六一年一月一九日開催の臨時総会における上告人除名の決議が違法であることは論をまたないところであり、いずれにしても原判決は破棄さるべきである。

第三点 原判決は、上告人をのぞく花岡漁重ほか四名の共同漁業権の行使について、漁業法第八条、第一〇条の解釈適用を誤り、ひいては民事訴訟法第三九五条第一項第六号の理由不備の誤りがある。

一 すなわち、原判決は、花岡漁重ほか四名の漁業権行使について、「理事会や昭和五七年度の通常総会において既に従前の行使者の権利を更新することが承認されていた」と認定している(原判決書四丁表九行目以下)。

しかしながら、昭和五七年度の通常総会議事録(乙第一四号証)には、昭和五八年九月一日に新たな行政庁から免許される共同漁業権の行使決定については、何一つ決議されてはいない。

二 昭和五七年度通常総会における第四号議案は「共同漁業権更新承認並びに同意の件」というものであり、右は被上告人組合がそれまでに行政庁から免許をうけている本件共第二五三四号の共同漁業権を含む五箇の共同漁業権が昭和五八年八月三一日を以ってその存続期間が終了するため、漁業法第一〇条、第一一条に基づいて事前に免許申請をする必要があり、そのために「共同漁業権更新承認及び同意」を組合総会にはかっているにすぎないものである。

右第四号議案の「朗読説明」として、「一〇年間毎に更新を行う更新期が昭和五八年度となっていますので、更新同意の承認をお願い致します」と提案しており、その結果、「万場一致で承認同意決定する(全漁業権取得)」と記載されている(乙第一四号証四枚目裏)。

三 すなわち、昭和五八年九月一日以降の被上告人の共同漁業権免許の申請について、当時、遊休させていた本件共第二五三四号の共同漁業権も含めて五箇の共同漁業権を「全漁業権取得」するよう申請することの承認同意を得るべく総会にはかっているものであって、右は漁業法第一〇条の免許申請の承認同意案件であるに過ぎない。

まだ、行政庁から昭和五八年九月一日以降の共同漁業権の免許が決定されていない段階(昭和五七年八月一四日現在)で、右共同漁業権の行使決定がなしうるいわれはないのであって、この昭和五七年度総会の第四号議案の更新承認同意決議をもって、花岡漁重ら四名に対する漁業権行使決定の承認決議があったとする原判決の判断は、明らかに漁業法第八条、第一〇条の解釈を誤ったものである。

四 原判決は右昭和五七年度通常総会の「更新承認同意決議」を、あたかも花岡漁重ら四名の共同漁業行使権者に対する「漁業権行使決定の承認決議」であるかのように認定しているのは、前述のとおり、漁業法第八条、第一〇条の解釈適用を誤ったものであり、その結果、花岡漁重ら四名の共同漁業権の行使については、いわゆる「但し書決議」を具備した適法のものであり、上告人の共同漁業権行使については、右「但し書決議」を経ていない違法なものとの判断に到達しているが、この原判決の判断は、上告人の本件共同漁業権行使決定と、花岡漁重ら四名の共同漁業権行使決定の適法性について、理由不備の誤りを犯しているといわねばならない。

五 これを要するに、昭和五七年度総会の第四号議案には、共同漁業権「更新」承認並びに同意の件となっているが、この「更新」とは、花岡漁重ら四名の共同漁業権行使を「更新」するというのではなく(新漁業法が更新主義を改廃したことについては、前記第一点で詳述したとおり)、被上告人組合がそれまで有していた五箇の共同漁業権を、昭和五八年九月一日以降も「全漁業権を取得」すべく「更新」申請するというものであって、右第四号議案が承認決定されていることを以って、花岡ら四名の「行使者の決定を更新することが承認された」(原判決四丁表一〇行目)ものではない。

六 従って、仮に、上告人の本件共同漁業権行使が総会の承認決議を経ておらずに違法であるとすれば、花岡ら四名の共同漁業権行使も、同様に、総会の承認決議を経ていないものであるといわざるをえない。

してみると、上告人の共同漁業権行使のみが違法であり、花岡ら四名の漁業権行使は適法であるという原判決の論旨は理由不備のそしりを免れないものであって、原判決は破棄されなければならない。

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